研究課題
固体に代表される凝縮体はおよそ1023個の原子核と電子で形成される量子多体系である。巨視的な数の構成粒子が互いに強く相互作用を及ぼしあうことで、少数粒子系や一粒子描像では予想もされない多彩でエキゾチックな現象が発現する。
本研究室では電子間や電子格子間に強い相互作用がはたらく系において、その磁性、誘電性、光物性、超伝導性について理論的に研究を行っている。主な研究テーマを以下に記す。
多自由度電子系のあたらしい物性
電子間のクーロン相互作用の強い系は多体電子系とよばれ、銅酸化物高温超伝導体をはじめとする遷移金属酸化物はその代表的な物質である。強いクーロン相互作用に起因する絶縁体(モット絶縁体や電荷秩序絶縁体)では一部の電子軌道のみが占有されるため、スピンや軌道の自由度が存在する。このような絶縁相近傍の金属相において、高温超伝導や巨大磁気抵抗効果などのバンド理論では予想されない新奇な現象が数多く見出されている。
本研究テーマでは、強相関電子系において電子の電荷、スピン、軌道の自由度が存在する系や格子の自由度と強く結合する系において発現する、新奇な物性現象とその電気的磁気的性質について微視的な視点から解明する。多自由度に起因して現れるあたらしい相(真空)、励起(粒子)、相共存・相競合に起因する巨大応答の探索を行う。研究結果は次世代の多機能材料−強相関デバイス−の設計の基礎となることが期待される。
最近の研究テーマ:
『軌道秩序における新規な希釈効果』
『軌道縮退系のリング交換相互作用と磁気八極子秩序』
『スピン転移のある系におけるキャリアードープと電子相分離』
軌道縮退系におけるリング交換相互作用と磁気八極子秩序 |
軌道希釈系における軌道擬スピン配列 |
蜂の巣格子軌道模型における有効相互作用の運動量表示 |
エキゾチックな誘電体の探索
物質に巨視的な電気分極が出現する現象は強誘電性として古くから知られており、多くの酸化物、有機物、液晶において見出され工業的にも広く応用がなされている。電気双極子モーメントの微視的な起源には永久双極子の配向、イオン格子の変位、電子雲の変位があり、双極子間のクーロン相互作用や電子共有結合性が強誘電転移を引き起こすと考えられている。
本研究テーマでは、これらとは全く異なった新しいタイプの誘電体や強誘電体を理論的に探索することである。具体的な例として磁性と誘電性が密接に関係した磁気誘電体や、電子の空間的な秩序により巨視的な分極が出現する“電子誘電体”の理論的探索とその起源の解明を目指す。後者においては電子相関効果や量子揺らぎの効果がその安定性に本質的に関与しているものと考えられ、光による超高速スイッチングやデバイスとしての応用も期待される。
最近の研究テーマ:
『層状鉄酸化物における電気分極と電荷揺らぎ』
『電荷移動型有機錯体におけるモット絶縁体と電荷秩序絶縁体の競合』
電荷移動型有機錯体におけるモット絶縁体と電荷秩序絶縁体 |
電子誘電体における光誘起分極スイッチング |
層状鉄酸化物における電荷秩序と電気分極 |
物質と光とのあたらしい関わり
近年、レーザー光源やX線光源その実験技術には目覚ましい発展がうかがえる。SPring-8を始めとする第3世代放射光源や自由電子レーザー、テラヘルツ・レーザー光源やフェムト秒領域超高速分光実験技術などはその一例である。これらの実験技術の発展は、これまでには全く予期されない光やX線と物質とのあたらしい形態の可能性を示唆している。
本研究テーマでは強相関電子系を対象とし、1)近年発展してきた光学技術を新しい実験プローブとして確立するための理論を構築すること、2)光照射により電子・格子構造を劇的に変化させ平衡状態では実現しないあたらしい秩序相や現象を探索することを目的とする。国内外の多くの実験グループとの密接な共同研究のもとに、実験データの理論的な解釈、微視的な光学過程の解明、新しい実験の提案を行う。
最近の研究テーマ:
『共鳴非弾性X線散乱における偏光依存性と軌道励起の観測』
『電荷・スピン結合系における光誘起ダイナミクス』
『遍歴相関電子系における光照射による低スピン―高スピン転移』
スピン電荷結合系における光照射効果 |
光照射による電荷ダイナミクスの実空間イメージ |