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どんな研究をしているの? -学部生向けに-

どんな研究をしているの?
  固体物性の理論的研究をしています。金属や半導体などの凝縮系と呼ばれる系は、1023個という膨大な数の電子と原子核が集まってできています。このような系では、数個の構成要素からできている素粒子や原子核と質的に異なった物理法則が支配しています。莫大な数の構成要素からなる系に特有な現象、性質やその起源を明らかにするのが固体物性の目的です。
   このような電子や原子核が多数個集まった系は、また「量子多体系」と呼ばれています。特に電子間のクーロン相互作用が強い物質は「強相関電子系」と呼ばれ、現在多くの研究がなされています。そこではいわゆる電子に関する平均場近似的な見方が破綻しており、電子のバンド描像を超えた見方が必要とされています。
  本研究グループでは固体物性のなかで特に「量子多体系」特有の電気磁気的性質、光学的性質、格子の自由度との相乗効果等の現象について理論的に研究を進めています。


"量子多体系"
平均場的描像が破綻
  通常の金属や半導体
平均場的(バンド的)描像

 

具体的な研究テーマは?
(1) 強相関電子系の量子複合物性
   強相関電子系の特徴の一つは、1)電子の局在性(波動性)と遍歴性(粒子性)が拮抗していること、2)電子の内部自由度である電荷、スピンや軌道の自由度が様々な現象に現れることです。ここで「軌道の自由度」とは、電子雲や波動関数の方向性の自由度です。例えば軌道量子数 L=1 のp軌道では3個の軌道自由度が、 L=2 のd軌道では5個の軌道自由度が存在します。結晶内では回転対称性がないためにこれらの縮退が一部解けますが、対称性の高い結晶では縮退が残ります。原子の最外殻軌道がこのような性質を持つとき、電子がどの軌道を占有するかという自由度が「軌道の自由度」と呼ばれます。
   局在ー遍歴の競争と内部自由度間が競合が絡み合うと、電子間相互作用の弱い固体では予想もできない新規な現象が現れます。その一例として、電荷や軌道の揺らぎを媒介とした超伝導、電気現象と磁気現象が結びついた電気磁気効果、磁場により電気伝導が大きく変化する巨大磁気抵抗効果、電子間相互作用を起源とする強誘電体などで、これらは実際の遷移金属酸化物や分子性有機導体で観測されています。本研究テーマではこれらの新規な現象の起源の解明、予測を理論的に行っています。
  最近の主な研究テーマ    
・「電子の空間秩序に起因した電子型強誘電体」
・「軌道揺らぎや電荷揺らぎを媒介とする新規な超伝導」
・「軌道励起(オービトン)・格子(フォノン)複合励起」


分子性有機導体における電荷秩序と電気分極

 

(2) 強相関電子系における光誘起非平衡ダイナミクス
   光やX線が有する粒子性と波動性を強相関電子系に利用することで、その特徴である電子の局在性と遍歴性をともに観測することができます。またその偏光、共鳴効果(固体内の特定のエネルギー準位にフォトンのエネルギーを合わせること)、回折効果を利用することで、電子の内部自由度である電荷、スピン、軌道のいずれにもアクセスできます。
   光はプローブとしてのみならず、電子や格子の状態を大きく変えることができます。フェムト秒パルスという非常に時間の短い光を固体に照射することで、系は強い励起状態や非平衡状態となりまる。そこでは強い電子間相互作用、電子多自由度のある系で熱平衡状態から強く離れた非平衡状態が実現することで、熱励起では実現しない新しい物性が発現します。 光誘起超伝導、光誘起絶縁体金属転移、光による磁性コントロールなどがその一例で、スピントロ二クス分野における応用なども期待されています。このように、光やX線が関与する非平衡現象の探索や新しい現象の観測の可能性を、数値計算や解析計算を駆使することで探っています。
  最近の主な研究テーマ
・「光照射による反強磁性絶縁体・強磁性金属転移」
・「光誘起低スピン・高スピン転移現象」
・「反強磁性モット絶縁体におけるダイナミカル・ドーピング」



モット絶縁体における光照射後の光学電気伝導度のシミュレーション。縦軸と横軸はそれぞれ周波数と時間。

 

(3) 電子間相互作用と電子格子相互作用の競合と協力
   固体内で電子間相互作用と並ぶ大切な相互作用として電子と格子変位(フォノン)との相互作用を挙げることができます。この相互作用には電子を局在させる効果(ポーラロン)や、超伝導の引力相互作用をもたらす効果など、固体内で様々な役割を果たしています。 固体内の代表的な二つの多体相互作用が同時に存在した時、互いを強めあうのか、競争して弱めあうのか?あるいは単独で存在したときには考えられない効果があるかもしれません。我々のグループでは両者の競合と協力について調べています。
  最近の主な研究テーマ
・「動的ヤーン・テラー効果に起因したスピン液体」
・「高温超伝導体における電子格子相互作用と電子間相互作用」



動的ヤーンテラー効果に起因したスピン・軌道エンタングルメント

 

どんな方法を使っているの?
  量子多体系の問題を理論的に解析するために、数値的手法、解析的手法を併せて様々な理論手法を使っています。
解析的方法:摂動法、クラスター摂動法、グリーン関数法、経路積分法、複合演算子法、(時間依存)Hartree-Fock法、非平衡(Keldysh)グリーン関数法
数値的方法:古典・量子モンテカルロ法、数値厳密対角化法(ランチョス法)、密度行列繰り込み群法(DMRG)、変分モンテカルロ法, iTEBD法



モット絶縁体にダイナミカルにドープしたキャリアに対する非平衡グリーン関数のダイアグラム


大規模数値計算用クラスター型計算機

 

研究グループの特徴は?
(1) 研究テーマのキーワードは?
電子相関、超伝導、磁性、(強)誘電性、光物性、非平衡ダイナミクス、軌道自由度、電子格子相互作用、など多岐の分野とテーマにまたがっています。
(2) 計算手法は?
解析的計算手法と数値的計算手法を相補的に使うことで、対象とする系の全容の解明を目指しています。
(3) 実験との関係は?
現実の物質や実験に即した理論研究を目指しています。単なる実験データの解析ではなく、未解明な実験結果から新しい物理を引き出したり、新しい理論結果の実験による検証を提案するもので、地に足の着いた理論研究を目指しています。国内外の多くの実験グループとの共同研究も行っています。